夏の小袖

読んだ本、活動の記録など

斜線堂弟プロブレムについて

Twitterで、斜線堂有紀氏の弟さんの発言が話題になっています。私が知ったのはtogetterにまとめられてからでしたが。

本を読まない弟に「殺人事件で全部宇宙人の仕業でした、みたいな可能性を無視できるのは何で?」と言われた - Togetter

私もTwitterでいくつかツイートしましたが、それに関することを少しここにも書いておきます。

ミステリの場合、ファンタジーかそうでないかは、かなり重要なファクターです。なぜなら、論理的に推理できる謎かどうかという問題になるからです。
特殊設定ミステリを除いて、作中のリアリティは現実と同じであるはずです。しかし、特殊設定かどうかが読者に提示されるか不明瞭なのですね。つまり、現実的な(ファンタジー要素の無い)小説であるかが、読者には分からない。終盤に宇宙人が出て来る可能性も、作中には出て来ないけど実は裏で宇宙人が手を引いていた可能性も、否定出来ないのです。フィクションであるという事実によって、作中リアリティがどこに線引きされているか不可知になっているということでしょう。

作中で探偵が辿り着いた真相が本当に真実か、という問題は、兼ねてから論争の的になってきました。後期クイーン問題も確かそんな問題なのですが、それを持ちだすまでもなく、小説は作品内世界の一部を切り取っているに過ぎません。世界のすべてを書き出すことは不可能だからです。そして、作品内の世界の、小説として切り取られていない部分に、現実世界とは違う現象が起こっていないとは限らない。それが宇宙人であったり、魔法であったり、神の存在だったりする訳です。

さて、ミステリにおける真相が宇宙人によるものであることは、否定され得るでしょうか。たぶん、不可能でしょう。宇宙人でなく怪異や幽霊や未来人でも良いのですが、読者が作品内世界のことを知り尽くすことが出来ないからです。
なぜそうなっているかと言うと、ファンタジーと呼ばれるものがあるからだと思います。

ファンタジーは、私は疎いのですが、現実とは違う物理法則が働く世界であるようです。宇宙人(異星人)も(現在の地球に於いては)ファンタジーと見做されることが殆どでしょう。ファンタジーに科学考証をする人がいるかは知りませんが、どこかで科学的には破綻するはずです。そして、それはミステリと相性が悪いのですね。

特殊設定ミステリというものがあります。魔法だったりSFであったり、現在の現実とは違う世界を舞台にしたミステリのことです。様々な設定のものがありますが、「現実とは違う世界の設定」という部分で、地獄の門が開いているように思います。
特殊設定ミステリの場合、設定の及ぶ範囲を示すことで作中のロジックが成立しているように読者に納得させる必要があります。ですが、例えば作中で宇宙人がいることを説明し切っても、未来人がいないことは説明出来ません。魔法のルールが説明されても、亜人種の特殊能力が無いと言いきれないのです。なぜなら、作中の世界と現実の世界は別の現象が起き得るという前提条件が置かれてしまっているからです。


では、どうすればミステリは成立するのか。本文の前に「作中の世界の物理現象等は現実世界のそれと全く同じである」などといちいち書く訳にいきません(書く作家がいても面白いですけどね)
特殊設定にしろそうでないにしろ、ロジックを使って推理出来なくては、ミステリではありません。
ただ、ロジックの範疇に無い存在を否定出来るのかと言えば、これは無理です。
しかし、ミステリのロジックは(少なくとも)作中で成立していれば良いという訳ではないのでしょう。探偵は、あらゆる可能性を排除して真理に辿り着けるでしょうか?

ここで一つ暴論を挙げると、ファンタジーが現実と違う世界を前提とすることが可能なら、ミステリにおけるフェアさは、「ミステリである」という事実によって作外から公理として設定出来るのではないか、という意見を作り上げることも不可能ではないでしょう。まぁ、これはジョークです。

話を戻すと、探偵は真理に辿り着けるのか、というと、不可能ではないけど、読者がその事実を知ることは出来ない、ということでしょう。つまり、作中の世界に於ける前提条件(物理現象)が現実と同じであるか、読者には分からないということです。
特殊設定ミステリに関しても、描かれていないファンタジーが存在しているか、読者には分かり得ません。つまり、存在していた場合探偵は真理に辿り着いていない可能性があるが、存在していない場合真相に辿り着いたのだろう、と想像するしかない訳です。不可知論に近いかな、という印象です。

ミステリが成立するためには読者がある程度納得する必要があるのでしょうけど、それは作家の手腕によるでしょう、というのが私の所見です。ある程度、外連味を利かせる必要があるかな、と思います。

作中の人物の行動の動機について書く余裕がありませんでした。また、いつか書きます。